「知床モデル」を全国へ。人と自然が共存する森を育む生態系管理プロジェクト

鈴木紅葉
東京大学先端科学技術研究センター 森章研究室 特任研究員

  • 森林再生
  • 生態系管理
  • 知床
  • 北海道の知床国立公園を拠点に、知床の森林生態系を研究しながら、失われた原生の森林生態系を再生する「知床モデル」の他地域展開に取り組んでいます。小学校高学年の頃から環境問題に関心を抱き、大学では森林科学と生態系保全学を多角的に学びました。知床でのインターンを経験する中で、現場での実践と科学的知見を結びつけることの重要性を実感し、研究者の道を選びました。

    私が専門とする「生態系管理学」は、生態系の構造・機能・プロセスを長期的に維持・回復することを目的とする学問であり、自然をただ保護するだけでなく、人間が適切に関与することで、より良い状態の自然を創り出したり、失われた自然を取り戻したりするという考え方を含みます。一見「破壊」と捉えられがちな自然撹乱(台風や斜面崩壊など)も、実は「再生」の契機になり得る自然のプロセスです。、自然撹乱をはじめとする環境変動が森林の樹種組成や構造にどのような影響を与えるのかを評価・予測しています。

    現在知床財団と協働で進めているのが、約50年にわたる「しれとこ100平方メートル運動」で培われた森林再生のノウハウや知見を、他の地域へ展開するプロジェクトです。自治体、実務者(知床財団)、アカデミア(森章研究室)が一体となり、実務と科学を両輪で回す「アダプティブマネジメント(適応的管理)」という生態系管理アプローチが知床で実装されています。

    全国展開を進める中で、コーディネート業務の難しさや、若手研究者の不足という課題に直面しています。そこで「ネイチャープレナー・ジャパン」では、地域と研究者のニーズを可視化し、適切なマッチングを行うための仕組みづくりに挑戦したいと考えています。

    知床の森づくりが300年先を見据えているように、自然との向き合い方は、私たち世代だけで完結するものではありません。次世代にこの思いをつなぐために、これからも活動を続けていきます。


    <Driveメディアで紹介されました>
    「知床モデル」で日本の森と生態系を再生したい。生態系管理を全国に広める森林再生の研究者 鈴木紅葉さん 

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    鈴木紅葉

    東京大学先端科学技術研究センター 森章研究室
    特任研究員

    東京大学先端科学技術研究センター 森章研究室
    特任研究員

    東京都出身。東京農工大学農学部で森林科学と生態系保全学を専攻。公益財団法人 知床財団でのインターンを経験後、横浜国立大学大学院に進学し、博士号(環境学)を取得。以来7年間、知床をメインフィールドに森林生態学、生態系管理学の研究に従事。フィールドワークとリモートセンシング、森林動態モデルを駆使し、知床の森林再生に貢献。国立研究開発法人科学技術振興機構のプロジェクト「地域ガバナンスに基づく自然資本の適応的管理」にも参画。