私は、幼少期にサバンナの野生動物、特に絶滅危惧種のリカオンに魅了されて以来、その「好き」という純粋な気持ちを原動力に、自然保護の世界を歩んできました。博士号を取得し、夢だったアフリカでの長期研究を通じて、野生世界の壮大さと儚さを肌で感じた日々。しかし、現場で痛感したのは、科学、社会、政策の間に横たわる深い溝と、「好き」という個人の想いだけでは自然を守れないという現実でした。大好きな生き物を本当に守るためには、研究だけでなく、これらの分野を結びつける「ブリッジ」としての役割が必要だと痛感したのです。
私自身がドキュメンタリーから夢を得たように、想いを力に変え、次世代の夢を育むメディアの可能性を信じ、その実践の場として「ROOTs(Rooting Our Own Tomorrows)」を設立しました。ROOTsでは、メディアの持つ影響力に注目し、野生生物保全の新しいアプローチを実践しています。テレビ番組や広告、CMなどのコンテンツにおいて、野生生物との適切な距離感や接し方について正しい情報を共に発信していきたいと考えています。これにより、野生生物の保全につながる新しいメディアの可能性を追求していきます。この活動は、違法取引の規制や供給元の監視だけでは解決できない、需要を生み出す根本原因に働きかけるものです。
私は、こうした一つひとつの保護活動を「点」で終わらせず、それらを「線」でつなぎ、最終的には社会全体で課題に取り組む「面」へと広げるエコシステムの構築が不可欠だと考えています。
「生物多様性」という言葉が示す通り、保護活動には多様な人々の力が必要です。生き物の知識だけでなく、政策にアプローチできる人、戦略を立てられる人など、それぞれの強みを活かせる社会を目指しています。国際自然保護連合日本委員会(IUCN Japan)の副会長としても、多様なセクターの人々を巻き込み、連携を強化していきたいと考えています。「生き物好き」の想いが力になる社会の実現へ、挑み続けます。